Dr_Salmiの研究室

食にまつわる話題

芋粥に使われた幻の甘味料

 現在、天然の甘味料といえば砂糖(ショ糖)で、サトウキビやテンサイがその原料となります。砂糖が日本にやってきたのは奈良時代だと言われています。

 当時は薬用とされ、一般に調味料として用いられたのは江戸時代以降ということです。当然人工甘味料などない時代ですが、ショ糖以外に甘味料はなかったのでしょうか。

 昨日、芥川賞の発表があったところですが、芥川龍之介の「芋粥」には「芋粥とは山の芋を中に切込んで、それを甘葛(あまずら)の汁で煮た、芋のことを言うのである」とあります。話の舞台は平安時代で、この頃、ショ糖以外に甘葛が甘味料として用いられていたようです。

 奈良女子大の方々が大学内のツタを使って甘葛を再現されています。甘葛の甘さは上品で、雑味がないそうです。さらに、甘葛の成分が化学的に分析されています。「フルクトース(果糖)、グルコースブドウ糖)、シュークロース(しょ糖)の3種類。これが1:1:3の割合」で含まれていたそうです。(参考:幻の甘味料あまづら(甘葛)の再現実験:奈良女子大学

 ショ糖は果糖とブドウ糖からできていますので、甘葛の甘味はシンプルな成分であるといえます。ただ、古代の甘葛がどの植物に由来するのか、はっきりとわかっていないようです。 1:1:3の比率で芋粥に添加すれば、芥川龍之介芋粥が再現出来るのかもしれません。  

芋粥」の登場人物の男は「芋粥を飽きるほど飲んでみたいということが、久しい前から、彼の唯一の欲望になっていた。」というぐらい、魅力的な味のようです。